純情エゴイスト

□心と体
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 刻む時間は何のカウントか…

 その一秒にその一秒で 刻まれる

 その一秒はその一秒が 刻んでいく

 会えない、という時間を

 トキは確かに数えている


休日、弘樹は本に読み耽っていた。

一度も本を置かず、一度も立ち上がらずに。

ただただ手元にあるページをめくり続けていた。

そうして気付いた時には休日の五分の四が終わろうとしていた。

これには弘樹もヤバイと思った。

時間を努めて気にしないようにはしていたが、まさか飲まず食わずの寝ずになるとは思っていなかった。

硬くなった体を伸ばして、足元に積み重なった本を避けながら寝室に向かう。

布団に入ると思いのほか疲れていたのか、何も考えずに眠りについた。

目が覚めたのは日付の変わる時間だった。

頭がまだスッキリしていなかったが、軽い物を腹に収めシャワーを浴びる。

そして、また眠りについた。

朝、目覚めると頭がボーっとするためコーヒーを飲んだ。

だがそれだけでお腹がいっぱいになり、朝食を食べずに大学に向かう。

まだ、疲れが残っているのか体が怠い。

「かーみじょーぉセンセッ☆おはよっ」

いつものごとく抱き着いてきた宮城に弘樹は足に力が入らずよろける。

(こいつ、前より痩せてる。それに顔色も悪い…。)

「まったく毎朝毎朝…なんで普通に・・・」

体勢を整えながら言う文句は、宮城の問いに遮られた。

「お前、最後に飯食ったのいつだ?」

その問いと宮城の真剣な表情に、弘樹は思わずたじろぐ。

動きも一瞬止まるが、すぐに再起動させる。

「そんなの今朝に決まってるじゃないですか。」

努めて当たり前のように言うが、宮城の視線は変わらずいぶかしげだった。

「ふーん。お前、昼はどうすんの?」

話題が変わった事にホッとするのも一瞬で、次の質問にも言葉がつまる。

「昼ですか?昼は…えーと、食堂!そう、食堂に行くつもりです。」

「そうか…じゃ、一緒だな。俺も今日は食堂なんだよね。」

とっさの思いつきで言った事を後悔した。

「あぁ、そうなんですか。」

「一緒に行くよな?上條。」

逃げる事も出来ないようだ。

「別に…かまいませんが。」

「じゃ、決まりな。」

約束を取り付けた宮城は、ようやく弘樹の部屋を出ていく。

弘樹は重いため息をつき、憂鬱な気分で午前を過ごした。

午前最後の授業を終えて弘樹が部屋に戻ると、部屋の前には宮城が待ち構えていた。

宮城が来る前に逃げる、という弘樹の考えは甘かったようだ。

弘樹は大人しく宮城と食堂に向かう。

「お前、この土日なにしてたの?」

食事をしながら、宮城が弘樹に問う。

休日明けなら誰でもするような普通の質問。

だが弘樹は、この問いにギクリとした。

休日、あそこまで不規則な生活をしたせいか気持ちがなんとなく後ろめたい。

「え?特になにも…本、読んでたくらいですかね。」

目線をわせ、止まっていた手を動かしながら答える。

「ふーん。・・・お前、休みは図書館にでも行け。んで、平日の仕事は急ぎでないかぎり二十時には上がれ。」

口調こそ軽いが、弘樹を見る目は真剣で僅かな怒りをちらつかせていた。

「な、なんでそんなこと…」

弘樹の行動や考えなど全てお見通しのような言葉に、ただ唖然とする。絞りだした声もうろたえていた。

「上司命令。破ったら彼氏君にバラすから。それに、定時に上がれと言わないだけ、お前を尊重したと思え。」

宮城は見ていないようでみている、その洞察力に度々素晴らしいと思う。

今回も、あらためて思い知らされる。こう言わざるをえないのだから。

「っ…わかりました。」

(あぁ、やっぱり教授には敵わないな。)
 
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